諸星大二郎『男たちの風景』

高校生になる前後にまとめてむさぼるように読んだ筒井康隆の『日本SFベスト集成』シリーズ、これは後々オレの小説の好みを決定づけただけではなく、漫画の楽しみ方の幅も広げてくれた。
特にこの諸星大二郎の「生物都市」。当時はもっぱら別マや花とゆめなどの少女漫画を読んでいたこともあって、少年漫画は画もストーリーも暑苦しいのとあまりにも様式化されていてどちらかというと避けていたのだけど、この短編をどーんと突きつけられて、ああこれが「表現するということなのか」とショックを受けたのをよく憶えている。
というような経緯があって、諸星作品を文字通り読みあさったのだった。<妖怪ハンター>や<マッドメン>シリーズなどのジャンプやチャンピオンのコミックス以外にも、朝日ソノラマや奇想天外社といった出版社から出ているコミックスの存在を知ったのもそのおかげ。田舎だとこういう本を置いている本屋も少なくて、本を探すノウハウも自然と身に付いたし、『COM』や『ガロ』の存在も知ることができた。だからいろいろな意味で「生物都市」は特別な作品なのだ。
この短編集は著者自身によるセレクトで、『男たちの風景』というテーマになってはいるけれども、多少ぶれがあるように思う。「アダムの肋骨」や表題作「男たちの風景」、「商社の赤い花」などはまさにテーマどおりだが、「貞操号の遭難」や「失楽園」はちょっと合っていないかな。まあこのシリーズはあと二作あるようだし、初期短編集として読めばこれはもう粒ぞろいなわけで、これらの作品をまとめて読めるというだけでもありがたい。
今回久しぶりにこれら初期の作品を読んでみると、色々と思い出すことが多い。「男たちの風景」のベッドシーンの描写はまさに昭和エロスという感じで印象に残ったし、「貞操号の遭難」の幻想的な描写や、「感情のある風景」の超絶アイディア。
あと今回気がついたのは、各短編の構成が翻訳短編SF小説のそれに似ているということ。特に、アシモフやクラークの英米SF黄金時代の短編の匂いが強い。オープニングが印象的で、伏線を張りつつ畳みかけるように細かいエピソードをつないでいく。
最後に収録されている、小説と漫画が融合した短編、これは描き下ろしとのことだけど、あまり現代の文化や風俗を取り入れなくてもよかったんじゃないかなあ。それこそ昭和な時代背景でもよかったと思う。