明智抄『毎日のセレモニー』

毎日のセレモニー <明智抄名作選 1>

毎日のセレモニー <明智抄名作選 1>

明智抄はもう大好きな作家なのだけど、何故か単行本をコンプリートしていなくて、それでこの復刊された単行本も初めて読んだ。
『砂漠に吹く風』や『サンプル・キティ』などのSF作品を除けば、『始末人シリーズ』もそうだけど、登場人物たちはほんのちょっとだけズレているだけで、いたって普通の学生だったり主婦だったりする。そのちょっとしたズレが、人間ならば誰にでもあるような本当に些細なズレが、幻想的な風景を見せたり事件を起こしたりするのだけど、ゼウス・エクス・マキナ的な異能者などの存在抜きに、ごくごく普通の人たちが自らを解決することによっていつの間にか日常へと回帰する。こんな漫画を描けるのは明智抄だけ。
この本の中では、「15年目のシャルル・ボネ症候群」と表題作「毎日のセレモニー」はややSF寄りというか幻想的な雰囲気。それ以外の作品は本当に日常的な話なのだけれども、どこかがいびつだ。特に自我が極端に強いわけでも明らかなサイコパスでもない人物が、他人をブン回したり殺人者となったりする。いや、でもよく読んでみると、やはり彼ら・彼女らは「異常」なのかな?と、考えれば考えるほどループに陥ってしまうし、もしかしたら自分にもそういう傾向があるのではないかと不安にすらなってくる。という、これはとても危うい作品集だ。
最後のほうに収録されている「若人の倫理」は雰囲気が『始末人シリーズ』っぽいけど、これだけ80年代の作品なんだな。筒井康隆の「おれに関する噂」を思わせるところもあったりして、こういうギャグは好きだなあ。