本名ワコウ『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』

単行本のときから気になっていて、Kindleに全巻揃っていたので大人買いして一気読み。ちょうど眠れなかったし。
タイトルと絵柄から勝手にエロおもしろいコメディかなと思っていたら、読んでみてびっくり、これはなかなか重たいテーマを正面から描いている。
絵は上手くはないかもしれないけれども女の子は可愛いし、確かにエロいシーンもふんだんにある。主人公はイケメンではないがとにかく何故かモテるというのも、読者が喜びそうなシチュエーションではある。だけどこの漫画、本質的なところで少女漫画なんじゃないか。それも24年組の。そう、読み始めてすぐに連想したのが、『風と木の詩』だった。龍彦の純粋で一途なところはセルジュだし、享楽的なように見えながらも屈折した何かがあり、子悪魔的な魅力をもつえみるはジルベール。……という表面的なところだけではなく、二人の主人公たちが反発しつつやがて惹かれ合っていき、周囲の人たちの欲望が渦巻く中でも己を貫きつつ成長していくところなども含めて。あとえみるは、ちょっとだけニャル子さんが入っているかも。
また、この漫画は若者たちのわりと狭い社会における群像劇であり、セックス描写が奔放で開放的なところなどは、山本直樹の『あさってDANCE』みたいだった。そいうえばこの作品も、一晩で一気読みして変なテンションになってしまったのだった。
というようなところが個人的にはツボだったのでかなり楽しめたし、上に挙げたのはただそういう類似点が見られるというだけで、オリジナリティは高い。こちらの予想の上のゆく展開に何度も驚かされたし、1巻に2度くらいは名シーン、名セリフが出てきて、はっとさせられる。覗き穴を通して自分が見ていたのは無知で弱い自分自身だった、なんていうのは、マクルーハンが言いそうじゃないか。
えみるが龍彦に対してたまに言う、「あなたはどうしてそうお人よしなんですか」というのは、最近個人的にも思うところがあって、世の中の大多数の人々は本当につくづく基本的にお人よしなんだよなあ。人の言葉は額面どおりに受け取ってその裏にある言外の意味にまでは想像できないみたいだし、自分自身の心の中を見つめてみれば、性善説など絵空事だとは思わないんだろうか。という愚痴はまあ置いておいて、そのような人の心の闇の部分を否応なく見せられながらも決して後ろ向きになったり人々から距離を置いたりすることはせずに精神的な成長を遂げた龍彦の存在こそが、「漫画的」といえるのだろう。まあこのくらいの夢がなくっちゃね。
ひとつだけ注文をつけるとすれば、登場人物たちは概ねデザインの専門学校生なので、その設定を活かしたエピソードがもっとあってもよかったかな。
とにかく、いろいろと楽しめる漫画だったし、ここ最近ではかなりのヒット。