アンナ・カヴァン『ジュリアとバズーカ』

ジュリアとバズーカ

ジュリアとバズーカ

また1年以上積んでしまった。
アンナ・カヴァンが好きといいつつ、まだ3冊め。この本は今までに読んだ『氷』、『アサイラム・ピース』とはちょっと雰囲気が違っていた。世の中との距離感とか絶対的でそれでいて心地よい孤独感といった点では共通しているのだけど、この『ジュリアとバズーカ』は、前半と後半とで収録作の雰囲気がかなり異なる。前半はどちらかというと『アサイラム・ピース』のような、一読して私小説とわかるけれどもフィクションとして昇華されている度合いが高い。だが後半の作品群は作者の、特に結婚生活はまさしくこうだったんじゃないかと思わせるような、ある種の生活感が漂っている。表題作を除いて。だから個人的には前半に収録されている短編群のほうが好みではある。
特にこの本の中で一番長い短編、といっても三十数ページしかないのだけど、「縞馬」はちょっと異質な感じがして驚いた。

これは、遠い宇宙から飛んでくる宇宙線と関係がある。この宇宙線が人や物に当たると、突然変異が起きる――ちょうど、縞馬の縞のようにだ。
このようなミュータントが二人、お互いに引き合う力は、近親相姦の持つ魔力に極めてよく似たものを持ち、普通の人間同士の愛の絆に比べてはるかに強いことだろう。

このくだりはなんというか、「らしくない」と思った。前述のように、決して多作とはいえないカヴァンの本の、しかもまだ2冊しか読んでいない者が言うのはおかしいかもしれないが。
あと、この本もやはりかつてサンリオ文庫から出版されていたのだが、書物としての体裁をもう少し現代的にしても良かったんじゃないか。装丁こそ新しいものの、翻訳は古くさいしかといって味があるでもなし、解説は救いようがない。そしてせめて、原題くらいは載せようよ。
ということで、http://www.isfdb.org/cgi-bin/ea.cgi?Anna_Kavan に原題が載っていたので、自分用にここにまとめておく。

  • 以前の住所 The Old Address (1970)
  • ある訪問 A Visit (1970)
  • Fog (1970)
  • 実験 Experimental (1970)
  • 英雄たちの世界 World of Heroes (1970)
  • メルセデス The Mercedes (1970)
  • クラリータ Clarita (1970)
  • はるか離れて Out and Away (1970)
  • 今と昔 Now and Then (1970)
  • 山の上高く High in the Mountains (1970)
  • 失われたものの間で Among the Lost Things (1970)
  • 縞馬 The Zebra-Struck (1970)
  • タウン・ガーデン A Town Garden (1970)
  • 取り憑かれて Obsessional (1970)
  • ジュリアとバズーカ Julia and the Bazooka (1970)