フィリップ・K・ディック&レイ・ネルスン『ガニメデ支配』

ガニメデ支配 (創元SF文庫)

ガニメデ支配 (創元SF文庫)

ここ数年、ディックの未訳が立て続けに出ている。これは共著だけど。
でもこの小説が今まで翻訳されなかったのはそれなりの理由(つまり、イマイチ)があってのことだろうと、とぅるっと流して読んだ。まあ、やっぱそんな感じでした。
ガニメデ人が支配階級と奴隷階級に枝分かれしてしまったために支配階級は手足が退化して代わりに舌を使うとか、喋るタクシーや幻視兵器といったガジェット、日系人の美人テレビ司会者に、レジスタンスのリーダーは黒人のテレパス、最終的にいいとこ取りするのは農場主と、ディック作品のうわべの特徴をごたまぜにしたような。ガニメデ人もテレパスで、彼らは遠隔地にいても意識を一にする「共同意識体」である、なんていう設定が唐突に現われて、ええーー!!ってなっちゃうようなところにも持ち味が遺憾なく発揮されている。
地球人の思想にかぶれて仲間から離脱してしまうガニメデ人のリーダーこそがいちばん人間くさい、というのも面白い。
さらに本編よりも面白いのが、牧眞司による解説。なるほど、『高い城の男』の原形か。