ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)

流行りもののベストセラーなんてたいしたことはあるまい、と思いながらも、せっかく借りたので読んでみた。
読み始めてさっそく、小学生でも読めるような漢字にまでルビがふってあって、ベストセラーになるくらいだから普段活字に接しない人にも読めるようにしなきゃならんのだなあ、と冷笑の度合いが高まったりしたが…。面白い。面白いぞ、これは。
活字が大きくてレイアウトがスカスカとはいえそれなりにボリュームはあるのだが、実質2日ほどで全部読んでしまった。本編のほとんどはわずか1日に起きた出来事で展開が早く、飽きさせないので一気に読めてしまう。破綻しているところや強引な展開もあるのだけれど、あまり気にならなかった。
何ヶ月か前にテレビでこの本に便乗した番組をやっていて、たまたまそれを観ていたのでネタは割れていたが、もともとこういうペダントリーは大好きなのでじゅうぶん楽しめた。ルーヴルもロンドンも行ったことがあるので、なんとなく雰囲気がわかったというのも大きい。
途中、この物語の核となる謎がなぜ「あの」タイミングで公表されなかったのかという話題が出てくる。この小説が書かれたのは2003年で、ああこの作者もちょっとタイミングをはずしちゃったのね、道理でやや苦しい言い訳でお茶を濁してるもんなあ、と思っていたら、最後のほうでこの伏線が効いてくるのだった。また、ある人物の正体については、見事に作者のミスリードに嵌められてしまった。これでもかと言わんばかりに出てくる暗号もちょうどいい難易度で、非英語圏の読者にも理解できるように配慮されている。娯楽小説はこうでなきゃ。謎の核心となるある事実については、フェミニズムへの言及がつきものだと思うのだが、これをうまく躱しているあたりも、エンターテイメントに徹しようという姿勢が伺える。同じくペダントリーを売り物にする、かつての輝きをすっかり失ってしまった日本の某超絶ミステリ作家にも見習ってもらいたいものだ。
まあ、これは企画の段階で成功したも同然だろう。映画化を意識した作りにもなっているし、これは売れて当然。
しかし、各巻の口絵でダ・ヴィンチの絵画や舞台となる寺院などを紹介しているのだが、これが激しくネタばれしているのはなんとかしてほしかったところ。