『いのちの食べかた』

Meat Is Murderな映画だろうと思ったが、先日観た『ファーストフード・ネイション』よりは血みどろ臓物度が少ない。そして今度こそ本当にドキュメンタリーだった。
音声は、労働者の会話や作業をしているときの音のみ。字幕や音楽は一切なし。
牛や豚を屠殺したり野菜を収穫したりする様子もあるけれど、それらを育てるところから描いてくれているのがいい。種牛の精液を採取するところなんか、雄は交尾の直前に雌から無理やり引きはがされて、まさに寸止め。牛の出産では帝王切開をしていたが、自然分娩にしないのは何故だろう?
温室で薬品(農薬なのか肥料なのかは不明)を噴霧するときには、ナウシカに出てきた「森の人」みたいなマスクと防護服を着用した完全防備で行われているので、かなり毒性が強いと思える。
現在はそういうものを見る機会がないから新鮮に感じたのだが、農業も畜産業も、想像していたよりもずっとメカメカしい。搾乳機をつけられた牛が乗るターンテーブルMYSTにでも出てきそうな雰囲気だし、露天の畑に農薬を散布する機械がマジックハンドのように散布機を展開するところなんか、変形型のモビルスーツのよう。孵化した鶏の雛はベルトコンベヤに乗せられて選別され、頭部を装置に入れて何らかの薬品か抗生物質かを投与しているようだ。
おれが子供時代を過ごした昭和40年代の農村では、鶏や牛馬は放し飼いに近い状態で飼われていたし、野菜も堆肥で育てられていた。だが、そのようなまさに牧歌的な雰囲気は、このドキュメンタリーで示された現在の農場や牧場には全くなかった。だからといって現代文明批判めいたことを言うつもりはなく、むしろ、犬や鯨を食べることにいちゃもんをつけるような輩にまずこの映像を見てもらいたいと思うのだ。