山上たつひこ『神代の国にて』

帯には、「光る風」以前に発表された…とあるけど、この短編集に収められている作品群は目次によると1971〜1972年となっているから、「光る風」よりも後だろう。小学館の編集部は何やってんの。「光る風」じゃなくて「喜劇新思想大系」の間違いか?
セージに関する言及はできるだけ避けたいので、どう感想を書こうかなあと思っていたが、巻末の中条省平による解説がとても的確で感動してしまった。

731部隊の細菌兵器開発のための人体実験が戦後日本の精神的風土まで地続きなのだ、という直感が貫かれていることは見逃せません

不覚にもこの方のことは知らなかったが、調べてみたところ文学はもちろん、マンガや音楽の評論もやっているようだ。たまたま見つけたのだが、 産経ニュースに掲載された(逮捕後の)嶽本野ばら評「【断 中条省平】作家としての倫理に背く」が面白かった。
この解説でも述べられているが、表題作は2・26事件を扱っているものの、60年代の左翼活動の顛末の暗喩でもあり、第二次大戦という大きな変化をはさんでいるとはいえ、近代以降のたかだか数十年という歴史的には比較的短い期間においてさえ同じようなことを繰り返してしまう人間の愚かさを描いているのだと思う。最近の、プチナショナリズムとでもいおうか、主にサブカル君たち(subcultureを指向する人たち、という意味ではない)の言動を見ていると、また同じことを繰り返してしまいそうな予感がする。