マイケル・シェイボン『シャーロック・ホームズ最後の解決』

シャーロック・ホームズ最後の解決 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズ最後の解決 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズものは、子供時代に短編を数編読んだだけ。かすかに憶えているのは、「ネイサン・ガリデブ」という名前と、「火事だ!」と叫ぶ話、地下鉄の屋根の上で死体が発見される話、奨学金を貰っていた真面目な学生が盗みを働く(?)話くらいか。本書の原題は"The Final Solution"だし、ホームズの名前はいっさい出てこず、「老人」や「養蜂家」という主語だけ。だからこの邦題がなければ、ホームズものとはわからなかっただろう。
とはいっても、ホームズものを知らなくてもじゅうぶん楽しめる内容になっているし、近年稀に見る薄さ(本編は150ページにも満たない)なのですぐ読めた。暗号めいた数字を喋るオウムというと、『フェルマーの鸚鵡は喋らない』を連想したが、あまり共通点はないか。でも、オウムに翻弄される人間のドタバタもの、というジャンルがあるのかもしれない。
たしかに前半は、かすかとはいえど記憶にあるホームズもののパスティーシュになっている。後半は、第二次大戦中という時代背景や、重要な中心人物であるユダヤ人少年がドイツからの亡命者だったり、一時的に「特殊な」語り手によるモノローグになったりと、SF的な要素も感じる。シェイボンという作家の特徴がよくわかる小説なので、『ユダヤ警官同盟』よりも先にこちらを読みたかった。