山岸凉子スペシャルセレクションV『天人唐草』

天人唐草 (山岸凉子スペシャルセレクション)

天人唐草 (山岸凉子スペシャルセレクション)

表題作は、『日出処の天子』から入ってすぐハマった山岸作品の中で、当時初めて「怖い」と思った作品。この主人公のように負のフィードバックによって精神が内破するのではなく、復讐という形で殺意として外に表出すると、「負の暗示」になるのかもしれない。「銀壺・金鎖」と「蜃気楼」も、ある意味対をなしている。「悪夢」は、表題作の主人公が捕らわれた/解放された"オリ"を、異なる角度から俯瞰しているのかも。
シュリンクス・パーン」だけが浮いているように見えるものの、これは実は「星の素白き花束の」の裏返しではないか。つまり、無垢と不浄の両極端というか。またその二点間の振幅が最大になったときには、それらの見分けはつかなくなる、という深読みもできる気がする。ということで、各作品のテーマが少しずつ重なり合いながら、全体として脆くかつ鋭利な印象を与えるパノラマを展開している。
そんな決して派手ではないけれども、精神の暗部を詳らかにしてしまうという非常に重い作品群の最後、「流々草花」でもってバランスをとるかのような構成がまたいいんだなあ。