森奈津子『先輩と私』

先輩と私

先輩と私

『スーパー乙女大戦』が出たばかりだが、その前に読んでおきたくて。
これはいい。まず設定が面白いし、それぞれのキャラクターもよくできているし、ちゃんとハッピーエンドになるのもいい。
ギャグも盛りだくさんで、特に、「自分が受けている責めをリアルタイムに口述筆記でエロ小説にせよ」という命令を受け、主人公が律義に実行するくだりなんかはゲラゲラ笑いながら読んだ。やはりこのドタバタ感は、かつての筒井康隆に通じるものがある。あと、この主人公とその先輩が、妙に生活感があるのもいい。主人公が学食でカレーうどんを食べているとき、同席しているライバルに、汁が飛びますよなどと注意したり、先輩が目玉焼きの食べ方を主人公に指南したり、その先輩なんかトイレ共同風呂なしの4畳半に住んでる。だけどそういう生活感が逆にいい効果を出していて、先輩の文学や己の性的志向に対する真摯な態度とストイックさが強調されている。もしかすると、「トキワ荘」を連想するように意図しているのかもしれない。
文学といえば、まあそんなに深いものではないのだけれど、たまに出てくる文学談義がわりと本気でかつ面白い。例えば、歴史上の事実を知らずに誤りを書いたのと、知っていて演出として「嘘」を書いたのとは全く違うという、リアリズムに関する議論。また、主人公が創作に行き詰まったために、自分が経験したことをそのまま私小説にしようとするが、どうしても書けない。だが、自分本来の妄想力を活かした創作態度という、自身のあるべき姿に主人公が「覚醒」するというのもよかった。そしてラスト近くのクライマックスは、エロいと同時に文学的感動さえ覚えるのである。二重の意味でクライマックスだ。