山岸凉子『日出処の天子』

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)

アラベスク』が完全版で出て、『妖精王』もスペシャルコレクションで出たからにはきっとこれも出るだろうと思っていた。白泉社のコミックスと角川から出ていた全集とでそれはもうくり返しくり返しくり返しくり返し読んでいるので、登場人物の血縁関係やコマ割りやセリフまで、全編そらで言えるくらいだ。
しかしこれはさすがに完全版と謳うだけのことはある。紙や印刷の質はいいし、カラーや扉も完全に再現されているし。前述のコミックスたちに比べるとコントラストが強めで、細部、特に人物の表情の印象がちょっと違っていたり、カラー部分にこんなグラデーションがかかっていたのか、といった新たな発見があった。もう1回目の最初のページからして、風景の木々の中に桜が含まれていることを、カラーページで初めて知った。「あらら内輪話」(だったっけ?)でギャグもやっていたが、連載5回目の扉には吹き出してしまった。
しかし、ここ数年は『テレプシコーラ』が完結したり、前述のように過去の作品の再編集版が出たりして、山岸作品に触れる頻度がとても高かった。そのせいだろうか、今回『日出処の天子』の冒頭を久しぶりに読んでみて、実はこの作品は山岸作品の中でも異色なのではないかと感じた。どこが?と問われると返答に困るのだが、日本のしかも飛鳥時代という背景のせいだろうか、「副馬」や「水煙」といった上代を描いた作品は他にもあるのだけど、それらともやはりどこかが違う。厩戸皇子のようなキャラクターが珍しいからだろうか。
というようなことをつらつらと書いていて思いついたが、ここに出てくる権謀術数や政事の描写は、よしながふみの『大奥』に受け継がれているんじゃないか。