SJ・ワトソン『わたしが眠りにつく前に』

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

主人公は特殊な記憶障害を患っている。朝、目が覚めると、前日までの記憶が失われているのだ。その状態がもう長いこと続いており、毎朝彼女はベッドに見知らぬ男と一緒にいることを、また鏡の中に記憶にあるよりもかなり老いた自分を見いだす、ということをもう二十年も続けている。……ということも当然覚えていないので、彼女は毎朝夫から同じ説明を受けねばならない。
そんな朝、彼女を診ているという医者から連絡があり、彼女自身が毎日つけている日誌の存在を知らされる。だがその日誌の冒頭には、夫を信じてはいけない、と書かれていた。と、冒頭のあらすじだけでもかなりグッとくる、サイコスリラー。
記憶障害とはいっても過去のことを全く思い出せないわけではなく、些細なきっかけで断片的に記憶が甦ることもあり、彼女の日誌には少しずつではあるが、日々彼女自身の歴史が再構築されていく。ページ数では本書の約半分がこの日誌にあてられている。読者は主人公と一緒に彼女の記憶をたどっていくわけだが、どことなくいびつで不穏な雰囲気が感じ取れる。また主人公がいわゆる「信頼できない語り手」だということもあって、どこに仕掛けがあるかわからないというスリルがある。派手な事件などが起きるわけではないけれど、リーダビリティは高い。
ただ、自分にしては珍しく、かなり早い段階でネタがわかってしまった。それでも、あまりの面白さに後半からは一気読みしたし、なかなかよい読書体験ではあった。なんとこの作者はこれがデビュー作だそうで、リドリー・スコット制作で映画化もされるらしい。これは次回作も楽しみ。