イノセント・ガーデン

ああ、こういう映画が観たかった。
一応、ジャンル分けするとすれば、サイコサスペンスあるいはミステリということになるのだろう。でも諍いや暴力などの直接的な表現は控えめで、あくまでも静謐な日常の中に見え隠れする異常な出来事や突飛な行動、過去の回想などが織り交ぜられて、登場人物たちの関係や事件の真相が徐々に明らかになってゆく。
特に映像が素晴らしく、仄めかしや暗喩や心理描写を、カメラワークやフレーミングといった技巧や、カットバックなどの演出でもって見せる。そういえば、ヒッチコックを意識したようなシーンもあった。映像にも「時制」という言葉を使ってよいのかどうかわからないけれど、時制のトリックというか、カットバックだけではなく、過去と現在がシンクロする描写や、マジックリアリズムにも通ずる表現が斬新だった。
そう、この映画の表現手法は、いわば文学なのだ。
18歳という微妙な年齢を迎えたばかりの主人公の少女、彼女と父親の関係、父親とその弟の関係、彼女・彼らからは疎外されている、というか自ら距離をおいているように見える母親、という隠微で危うく脆い家族の図式を、台詞で説明するのではなく主に映像で見せるという、これは素晴らしい映画。