シャニダールの花

あらすじだけを読むとちょっとSFっぽい恋愛もの、という雰囲気なので観に行ってみた。しかしこれは、はっきり言ってあらすじ詐欺。
全体的に落ち着いた静謐なトーンなのはいい。開始10分ほどで客席の2ヶ所から鼾が聞こえてきて苦笑してしまったけど、この雰囲気は好きだし、配役もいい。
けれども、映像の細部がどうにも適当すぎる。主な舞台が研究所という設定なので、研究室などに入る際にカード認証をするのだが、そのときのセキュリティシステムの画面が、本人の顔が表示されたりして今どきのハリウッド映画っぽい。かと思えばその研究室の中は、こりゃ中学校の理科室じゃないかというレベル。被験体の女性達が居るエリアに入る際にはエアシャワーを浴びるのだが、そのわりには頭や足元を覆っているわけでもなく、そもそも普通の人間達が普通に暮らしているような場所でコンタミを気にする意味がわからない。
この映画の主要なアイテムである花もいかにも作り物っぽいし、その花は被験体である女性達の胸から生えてくるのだが、花を保護するためにプラスチックの蓋で覆っている。それがまるで、百均で売ってる小物入れのよう。
というように、映画のストーリーや雰囲気と舞台装置や小道具のバランスがとてもちぐはぐしていて、気になって仕方がなかった。
では物語はどうだったかというと、これがまたどこに焦点を当てているのかさっぱりわからない。花が何かのメタファーになっているかとも思ったが、たしかにそういう面は少しはあるのだけれども、映画の中の説明では、恐竜が絶滅した間接的な原因だったり、ネアンデルタール人が滅びたのは花が寄生したためだというし、現代人は花と共存することで繁栄したのだという。一方でその花には貴重な成分が含まれており、新薬の開発に用いられるという。
主役の男女二人が恋愛関係になるのも、お互いが惹かれあうようになる過程が描かれるわけでもなく、唐突な感じ。特に女性のほうは、登場早々いきなり絵を描き始めたのでエキセントリックな性格という設定なのかと思いきや、どちらかというと内向的で職務に忠実なタイプで、その後の行動はいたって普通。
というように、ディテールが曖昧なのと、物語のスケール感が捉えどころがなくて、とても中途半端な映画だった。というか、これを映画にする意図がまずわからない。製作者は一体何を伝えたかったのだろう。
で、家に帰ってから調べてみたら、監督は石井聰互改め石井岳龍なのだった。石井聰互が改名していたことは不覚にも知らなかったが、それにしてもなんでこうなっちゃったの。