ミネット・ウォルターズ『養鶏場の殺人/火口箱』

この作者は名前は知っていたけれども読むのは初めて。先日の東京創元 2014年新刊ラインナップ説明会で紹介されていて、興味を持った。
この本は2編の中編からなっている。「養鶏場の殺人」は、普段あまり本を読まない人にも読んでもらおうという「クイック・リード・シリーズ」の一編として書かれたそうで、そう聞くとなんだかラノベみたいなものを想像してしまうが、どっこい実話を元にした結構重たいテーマの話なのだった。
元になった事件は「犯人」が処刑されて一応の解決はされたことになっているが、その犯人は一貫して無実であることを主張していたという。本編につづいて「著者のノート」というのがあり、そこでは著者が想像するこの事件の真相について述べられているが、かなり断定に近い内容になっている。これはちょっと驚いた。この手の話は真相は読者の判断に委ねるというスタンスが一般的だと思うが、ここまではっきりと自分の意見を述べているケースというのは見たことがない。
もう一編の「火口箱」もまた、普段は読まない分野の本を読んでもらおうという目的のもとに書かれたそうで、こちらも長さのわりに読みごたえがある。ミステリというよりは、スリラーに近い雰囲気で、アイルランドイングランドの複雑な歴史的背景や差別意識、階級間の格差からご町内の家庭間のいざこざまでが技巧を凝らして赤裸々に描かれており、これは確かに普段ミステリや犯罪小説を読まない人でも惹かれるんじゃないか。
2編とも読みやすさを念頭に置かれて書かれているからか、ボリュームもそれほどないこともあってとぅるっと読めてしまった。これは確かに、この作者の本をもっと読んでみようという気になる本だ。