ジョン・スコルジー『レッドスーツ』

レッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

レッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

スコルジーは今まで読んだことがなかった。だからこの作品も予備知識ゼロで読み始めたら、あれ、これはコメディ?
特にSF考証もなく超光速航法が当たり前のように使われていたり、危機に際して制限時間ギリギリに問題を解決してくれるブラックボックスがあって、それが電子レンジよろしく「チン」と鳴ったり。『ギャラクシー・クエスト』と『宇宙船レッド・ドワーフ号』を足し合わせたような面白さで個人的にはどストライク。『スタートレック』というか『宇宙大作戦』はあまり観ていなかったので全然詳しくないのだけど、それのパロディであることくらいはわかるし、知らなくても楽しめる。
しかし、やがて登場人物たちは、この宇宙船のクルーの死亡率が異常に高いことに気がつく。それだけではなく、艦長や階級の高い者、そして彼らのそばにいる人物は、不合理にも危険を回避できたり、重症を負っても奇跡的に短期間で回復するという傾向があることもわかってくる。と、ここから展開が変化して、物語はメタな方向へ。
物語の登場人物が、己がフィクションの世界の存在であることに気づいてその作者と相互作用する、というプロットはわりとよくあるパターンでひとつのジャンルを形成しているといえるが、この小説はそれとは少々異なる。これはなかなか新鮮。そしてそれだけにはとどまらず、さらにメタメタな方向に展開する。
終章が3つのパートに分かれていて、それぞれ「一人称」、「二人称」、「三人称」、という副題がついている。これはそのまんまの意味で、それぞれのパートの人称が「わたし」、「あなた」、そしてある人物の名前となっている。それら各パートがまたよくできていて、ギャグだったり泣かせる話があったり。とくに「二人称」は、(自分も含めて)こういう小説を読む人にとっては、いろいろと考えさせられるところがあるんじゃないだろうか。