ティム・レボン『エイリアン 虚空の影』

エイリアン 虚空の影 (竹書房文庫)

エイリアン 虚空の影 (竹書房文庫)

個人的にSF映画のベスト・ワンは『エイリアン』で、きっとこれは更新されることはないだろう、というくらいに好き。
ノベライズも『エイリアン』と『エイリアン2』を読んでいる。これらのノベライズではSF考証がしっかりしていて、映画ではそれほど深く追求されなかった生命体としてのエイリアンの考察が面白かった。エイリアンは強靭で生命力が強く生存確率が高いゆえにライフサイクルが短い、集合体となるとアリやハチと同じように社会的なヒエラルキーを構成するようになり「知的」にもなりうる、など。
この小説は映画でいうと第一作と二作目の間に起きたエピソードということになっていて、これがなかなかよくできているし、この発想はなかった。前日譚でも後日譚でもなく、リプリーが地球軌道上で目を覚ますまでの57年間に着目するというのは面白い。そしてこの設定がちゃんと破綻なく収まっている。
またSF小説としての読みどころもあって、それは一作目に出てきたスペース・ジョッキーでも映画『プロメテウス』の舞台でもない(たぶん)惑星にかつて存在したのであろう文明と、そこでおそらくは数十万年ものあいだ獲物を待ち受けていたのであろうエイリアンの描写だ。ここはビジュアル的な描写が抑えられているがゆえに、もどかしさも感じるもののさらに想像力を刺激する。
そしてアッシュ。映画では「ロボット」や「アンドロイド」などと呼ばれていたけど、アッシュは映画一作目で身体を失っているので、この小説ではおもに「AI」と呼ばれる。AIという言葉が説明なしに使われるようになるとは、時代の流れを感じる。
前述のようにこの小説が映画の一作目と二作目の間に位置していることは明らかなので、読者は結末を知っている。ここに矛盾を生じさせるわけにはいかながゆえにか、ストーリー展開にやや強引なところがあるが、これはまあ仕方がないか。まず結末があり、その着地点に向けてストーリーを組み立て、物語を成立させるために都合のよい人物を配置し……という背景が、意地の悪い見方をすれば透けて見えてしまう。リプリーが地球においてきた娘の幻影を見るというのも、彼女がこの小説でのエピソードを記憶していてはいけないという制約をクリアするための仕掛けではあるのだけど、ややリプリーらしくない。
解説によるとこの小説は三部作の一作目とのことで、この続きとなるとはやはり主人公はフーパーなのかな。このキャラクターはなかなか面白いし、続編の翻訳もぜひ。