マイクル・コーニィ『パラークシの記憶』

パラークシの記憶 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

前作『ハローサマー、グッドバイ』はそれはもうすばらしい小説で、その後書きには続編があるが作者の死後に刊行されたと記されていた。
その続編がこうして読めるとは。一年近く積んじゃったけど。
冒頭の主人公のモノローグが、「地球人」に宛てられていて驚く。前作では星間航行どころか天文学すら未発達だったこの惑星の住人だが、いつの間に地球人とコンタクトしていたのか。もしかしてこの惑星は前作の舞台とは異なるのでは、という疑問が浮かぶが、これは最初のページで早くも否定され、やはりここは前作の惑星であり、あの事件からかなりの年月が経過していることもわかる。
他にも、この惑星の住人「スティルク」は同性の先祖、つまり男ならば父系の、女ならば母系の記憶を受け継いでいること、海に住み漁を営む部族と、山に住み農業や狩りを営む部族とに分かれていること、政治体制やテクノロジーが前作よりも未発達であること、といった違いがある。
主人公の少年と少女の物語に絡めてこれらの相違点の理由が徐々に明らかになっていくのは、読んでいてゾクゾクする。そして、前作のどんでん返しにもちゃんとした合理的な説明がつけられていて、思わず唸ってしまう。しかもそれだけには留まらず、前作ではある天文学的事象が物語の核心に存在したが、今作ではもう一歩踏み込んだSF的宇宙(生命)観が呈示される。ラストは『未来少年コナン』みたいでもう心からスカッとした。
訳者あとがきにもあるけど、これは前作を読んでおくのは必須条件だと言い切ってしまおう。きっと、良い「続編」とはこういう作品のことをいうのだろう。
この惑星の住人の出自に関して、ちょっとした引っ掛かりを覚えてしまうのはやむを得ないことかもしれない。けれども、彼らはそれをしっかりと受け止めた上で自らの種族としてのアイデンティティを見いだすという、一種の「強さ」。これはちょっと想像を膨らませると人類、つまりわれわれにも当てはまることかもしれないわけで、こういう視点をも与えてくれる、これは本当に素晴らしい小説。SFっていいね。

次はぜひ『プロントメク!』の復刊をお願いします。