ピエール・ルメートル『その女アレックス』

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

やたらと人気だけど、こいつぁスゴい!!というほどではない。確かに第一部の終わりのほうで、おー!となったけど、ああこの作家はこういう書き方が芸風なんだということがわかってしまうと、以降はそんなに驚かない。
文章にもう少し捻りがあればもっと楽しめたと思うし、騙される悦びが味わえたかもしれない。いかにもな叙述トリックではないものの、叙述形式をもう少し練ったほうがよかったんじゃないか。
そう、この作者は文章がイマイチ。これは翻訳のせいではないと思う。基本的にアレックスの行動は行き当たりばったりとしか思えないにもかかわらず、そこに収束するかぁ?という疑問が残ってしまう。この流れを読者に納得させるような力技がほしかった。
あと、警察はあくまでも私情を挟んではいけないだろう。裁きが必要なら、それは警察の役目ではないはず。
ただ、最後まで読んでから思い返してみると、ああなるほど、と思わせるところがたまにあって、そこはよかった。序盤でアレックスが監禁されたばかりのところで、否応なしに排尿せざるをえなくなるのだが、

もともとアレックスは尿意を長くこらえられるほうではない。

というなんてことのないさりげない一文は、最後まで読むと、ああなるほどそういうことだったかと思わせる。こういうくすぐりがもっとあればよかった。
でもなあ、強引なところが多すぎるよなあ。それに、アレックスがアレされてたというのは度々仄めかされていたので驚かないが、じゃあナニをソレされたうえでアレされるということがありうるのか?時系列が今一つはっきりしないのでソレされたのはさんざんアレされた後で、それっきりアレされてはいない、ということかもしれないが。
ところで、個人的にこの本で一番良かったエピソードは、主人公の刑事の母が生前に描いた自画像をめぐるサブプロットだったりする。この「どんでん返し」のほうが、本編よりも衝撃的かつ感動的。