諸星大二郎『蒼の群像』

タイトルには「蒼」とあるけど、ここに収録されている作品群のイメージを色でたとえると、やはり「黒」になるなあ。そして、70年代に描かれたものがダントツで素晴らしい。
久しぶりに再読してみて思ったのは、この時代の画がとても不安に満ちているということ。特に「子供の遊び」。ごく普通の家並みだったり家族の食事風景だったり河原の景色だったりするものが、構図が微妙にずれていたり不安定だったりコマ割りが変則的だったりして、計算されたアンバランスさが絶妙な居心地の悪さを感じさせる。
これは「不安の立像」や「真夜中のプシケー」、「袋の中」にもいえることで、やはりこれらの短編は群を抜いている。
あと、この短編集のもう一つのテーマ的なものがあるとすれば、一コの人間の意思や力などはとうてい及ばない、強力でいて正体の全く見えない力の存在だろう。「詔命」の何が怖いって、その力を直接ふるう超越的な神性などは仄めかされるだけで姿を現したりはしないにもかかわらず、そのようなモノは確かに存在しており、しかもそれはやはり一コの人間にすぎない者たちによって営まれており、さらにその役割は容易に逆転しうるということだろう。このことをブラック・ユーモアで表現すると、「復習クラブ」になるのかもしれない。
「鰯の埋葬」と「蒼い群れ」は読んでいるはずなのに印象に残っていなかった。今ちょっとググってみたら、「鰯の埋葬」というゴヤの絵画があって、これが作中で引用されていた。なるほどー。インターネットって便利。