チャールズ・ユウ『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

翻訳は円城塔。しかしまるで円城塔が英語で書いて自分で翻訳したかのような、親和性の高さ。「継時上物語学」という訳語には思わず唸ってしまった。
この作者の作風なのかもしれないけど、さりげない軽妙な語り口で淡々と物語が進むので、いつの間にか重要な事件が起きているのにうっかり見過ごしてしまい、また戻って読み直すということが何度かあった。でも面白い文章だなあ。
タイムマシンで未来から来た自分自身を銃で撃ってしまうというタイムパラドックスを、このようにあっさりと描くというのはなかなか面白い。そこに家族の物語が絡んでくるというのもユニークだし、何より驚くべきことにこのタイムパラドックスは解決するのだ。それがまた、ある意味作者自身が照れているかのようなさりげない文体で描かれるもので、むしろ拍子抜けしてしまいそうになるという、決して計算だけでは成し得ないバランス感覚がまた心地よい。