佐藤史生『夢みる惑星』

夢みる惑星 (1) (小学館文庫)

夢みる惑星 (1) (小学館文庫)

夢みる惑星 (2) (小学館文庫)

夢みる惑星 (2) (小学館文庫)

夢みる惑星 (3) (小学館文庫)

夢みる惑星 (3) (小学館文庫)

それはもうじっくりと、ひとコマひとコマを、セリフのひとつひとつを噛みしめるように読んでみた。
この『夢みる惑星』こそが、佐藤史生との出会いだった。『風と木の詩』の第二部を読みたくてたまにプチフラワー(当時)を買って読んでいたが、元々異世界ファンタジーは大嫌いだったので、スルーしていた。しかし、最終回の一つ前の回で星船が「発見」されるくだりと、最終回とを読んでみて、遅ればせながらこの作品がファンタジーではなく本格SFであることがわかり、さかのぼって最初から読み、他の単行本も買いあさったのだった。その後、いまはもうないが函館の「宇宙塵」というそのまんまな名前のSFファンの溜まり場的喫茶店で、「天の足音」が掲載されたプチフラワーを偶然手に取り、シリンが描かれたカラーの扉絵の美しさに息を呑んだものだった。
改めてこの文庫版を読んでみると、1巻は1話ずつにサブタイトルがつけられていることに気がついた。確かこのころはプチフラワーが季刊で、1話あたりのページ数も多かったからだろう。2巻と3巻は、目次ではそれぞれ「夢みる惑星(前)」と「夢みる惑星(後)」となっており、登場人物がひととおり揃ってイリスが大神官に就任するまでと、大災厄を逃れるためにイリスをはじめ「谷」の人びとが奮闘するパートとに、構成が分かれている。ちょうど2巻に入るところで、プチフラワーが季刊から隔月刊になったのかもしれない。さらに1巻は、各話が独立した短編としてもじゅうぶん通用するほどのクオリティだ。1話ずつ、主要な登場人物が現れ、少しずつこの世界の様相がわかるようにもなっている。
サブキャラクターの配置も秀逸で、エル・ライジアと対照的なポジションにあるジオ博士や、有能な官吏でありながらも実はロマンチストのズオーがイリスとタジオンとの間で板挟みになるところが面白い。
また、今回印象に残ったのは、特に女性の登場人物がみな精神的に自立して毅然としていること。あくまでも女性らしさを失わず、キャラクターがそれぞれの確固たる信念に基づいて行動しており、かつ他者をとても尊重している。皇后さまなんかは相当苦労しているはずだが、たまに登場しては非常にいい味を出してスッと去っていく。後半になって登場するマヌのアッサもいい。
『竜の夢その他の夢』では、途中で余計なエピソードを盛り込んだために後半バタバタしてしまった、というようなことを作者が述べている。だけど、中だるみしているという印象は全くなくて、むしろ密度が濃く感じた。
実は佐藤史生はかなり技巧を凝らす作家だと思っているのだけど(特に短編)、この『夢みる惑星』もそう。大神官就任式で、モロー族のゲイルが様式化された殺人の「舞い」でもってイリスを暗殺しようとするくだりを、「儀式の中の儀式」と形容するというのは、鳥肌立つくらいだ。また、シリンに関して、あからさまではないけれども深読みすると実は結構シビアな過去があるんじゃないか、という仄めかしが所々にあったりもする。
もう10回くらいは通して読んでいると思うけど、ここ数年は読んでいなかった。これからは折りを見て佐藤史生作品を再読することにする。